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変鬼


 

 京の華厳寺(けごんじ)の僧侶月堂は、かつて喜捨(きしゃ)を求めて貴州に足を踏み入れたことがある。その時、土地の人間から不思議な話を聞いた。
 この地には「変鬼法」という不思議な術を操る能力者がいるそうである。男にも女にもいて、羊や豚、驢馬、騾馬(らば)の類に変化(へんげ)し、人を噛んで死に至らしめ、血をすすり、肉を食らう。当局がどんなに厳重な禁令を発布しても、いっこうに取り締まることができないのであった。
 月堂にこの話をした人はこう戒めた。
「寝る時にはくれぐれも気をつけるように」
 月堂が数人とともにある寺で寝ていると、戸外で羊の鳴き声が聞こえた。こんな夜中に、と不思議に思っていると、はたして一頭の羊が姿を現した。羊は眠っている人の体を一人一人嗅ぎまわり、だんだんに月堂の寝ているところへ近づいてきた。
(もしや、話に聞いていたものでは?)
 そこで枕元の襌杖(ぜんじょう)を掴むと、力まかせに羊を殴りつけた。羊は地に転がったかと思うと、裸の女になった。それを縛り上げて役所に突き出そうとしたところ、女は泣き叫んで助けを乞うた。
 夜明けを待って女の家へ人をやったところ、家人が慌てて飛んできた。家族一同、月堂の前に跪き、女を放してくれるよう哀願し、その見返りに金三百両を払うことを申し出た。そこで、月堂も女を放してやることにした。

 他日、月堂が所用で郊外へ出た時のことである。役人が総出で人を一人、生き埋めにしているところに出くわした。見物人に問うと、
「変鬼人を捕まえたんですよ」
 とのことであった。

(明『庚巳編』)