波斯人


  

 る波斯(ペルシャ)人が福建の泉州を訪れた。ある夜、波斯人は墓地を通りかかった。その時、一つの古い墓が宝の気を発するのを見た。急いで墓の隣の家にこの墓を買い取りたいと掛け合ったが、頑として首を縦に振らない。そこで波斯人はこう言った。

「この墓はすでに主一族がいなくなって五百年も経っているはずですがね」

 すると、その家の者もしぶしぶ銭を受け取った。墓を暴いて棺を開くと、すでに遺骸は朽ち果て、こぶし大の円い石が一つ残っているだけだった。その石は水晶よりもよく光っていた。月に照らしてみると何か影が見える。鋸で切り開くと、目の前に突如として夢のような光景が広がった。青々と美しい山水。そして、樹の下では女が一人、美しく化粧して藁(わら)むしろに坐り、その山水に眸をこらしていた。ずっと見ていると石は突然空中に舞い上がり、月より明るく光って、やがてどこへとも知れず飛んで行った…。

 おそらく、この女は山水に対する愛情が強く、朝晩眺めているうちに山水の清らかな気を吸い込み、心臓が山水と溶け合って石のように堅く固まったのであろう。死後も山水への憧れは消えず、遠く武夷(ぶい)山へとその心臓は飛んで行ったのかもしれない。

(清『聊斎志異』)