思索を練る場所


 

 の銭思公(せんしこう)は富貴な生まれではあったが、嗜欲(しよく)の少ない人であった。かつて同僚にこんなことを言っていた。
「普段、好むことといえば読書だね。坐れば経史を読み、寝る時は小説を読む。厠(かわや)では詞を見ることにしてるんだ。今までちょっとでも書物を手放したことなんてないね」
 また、謝希深(しゃきしん)によると、宋公垂は厠へな必ず書物を抱えて入り、読む声が朗々と遠近に響き渡ったという。謝希深はこう言っている。 「普段、文章を練る所の多く『三上』にある。つまり馬上、枕上、厠の上だ」
 思うにこの三つの場所は、思索を練るのに適しているのであろう。

(宋『帰田録』)