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取り替え子


 

 素という人は富裕であったが、妻を娶って十年になるというのにいまだ子供に恵まれなかった。
 人の勧めもあって後継ぎを儲けるために妾を入れることにした。それを知った妻が何とか子宝を授けてくれるよう先祖の霊廟に祈願したところ、めでたく懐妊した。偶然であるが、隣家の妻も懐妊した。陳素の妻は隣家の妻に金品を贈って頼んだ。
「私に男の子が生まれればよいのだけれど、もしも私に女の子が、あなたに男の子が生まれたら、その時は取り替えてもらえないかしら」
 隣家の妻にはすでに男の子がいたので、この申し出を承諾した。
 月満ちて隣家の妻は男の子を産み落とした。それに遅れること三日、陳素の妻が産み落としたのは女の子であった。二人は取り決めに従って、互いの子供を取り替えた。それは誰も知らない、二人だけの秘密であった。
 待ち望んだ後継ぎを得た陳素の喜びは並々ならぬものであった。

 それから十三年の歳月が流れ、霊廟の祭祀に陳素の子供も名を連ねることになった。
 陳素の家では古くから一人の老婢を召し使っていたのだが、幽鬼の姿を見ることができた。その老婢がこんなことを言った。
「旦那様、ご先祖様が門の前までいらしているのですが、そこから一歩も進もうとなされません。子供達の群がご先祖様のお席に来てお供えを食べておるのが見えるのですが」
 不審に思った陳素は改めて霊能力者を呼び、祭祀に同席させた。すると、霊能力者も老婢と同じことを言うのであった。
 陳素は先祖が子供を自分の血筋の者と認めていないことに疑念を抱き、妻を問いただしてみた。驚き慌てた妻は隣家の妻と子供を取り替えたことを告白した。
 陳素は子供を隣家に返し、自分の子供を引き取った。

 このことは東晋の昇平元年(357)に起こったという。

(六朝『幽明録』)