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海嘯(かいしょう)異聞


 

 宋の紹興八年(1138)八月十八日のことである。この日は銭塘江(せんとうこう)の逆流の二日前にあたっていた。沿岸の住民の耳に空中から人の声が聞こえてきた。
「橋の上の数百人が死ぬぞ。どいつも行いの正しからぬ人間だ。まだ来ていない者もいるようだから、当日来させるように。また、該当しない者は巻き添えを食わさぬよう手配しろ」
 それに応じて承知したと答える大勢の声が聞こえた。
 明くる夜は橋の近くの住人の夢に一人の男が現れて戒めた。
「明日は橋に登ってはならぬ」
 近隣の者の多くが同様の夢を見た。
 逆流の当日、どの橋の上も見物客で満員になった。夢を見た人々は橋の上に身内の姿を見つけると、慌てて下りるよう忠告した。しかし、誰もまともに取り合わなかった。
 しばらくして、逆流が始まった。例年になく大きな波であった。橋の上の見物客達は一斉に歓声を上げたが、その声は間もなく悲鳴に変わった。巨大な波が次々に橋に襲いかかったのである。橋は木っ端微塵に砕け、数百人が波に呑まれて溺死した。そのいずれもが日頃から行いの芳(かんば)しくない者であった。

(明『西湖遊覧志餘』)