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海賊


 

 の臨海県(注:現浙江省)に袁晁(えんちょう)という人がいた。表向きは海商であったが、その実は海賊を働いて荒稼ぎをしていた。

 広徳二年(746)のある日、袁晁は手下を率いて永嘉県(注:現浙江省)へ掠奪に向った。途中で大波に遭い、沖合い数千里へと流されてしまった。海上を遥かに望むと、さほど遠くない所に一つの島が見えた。島には鬱蒼と木が茂った山があり、その中腹には城壁を廻らした城が陽光を受けて燦然と輝いている。袁晁は急いで手下に命じて船首をその島へと向けさせた。
 島に上陸すると、すぐさま山中に分け入った。中腹には金色に輝く城が聳えていた。瑠璃瓦に玳瑁(たいまい)の壁、という宮殿のようなこしらえである。袁晁らは喜び勇んで城内へ侵入した。広大な城の中には人っ子一人見当たらず、しんと静まり返っている。回廊を抜けたところが、一つの部屋になっていた。ここにも人はおらず、ただずんぐりした犬が二十頭余りゴロゴロしているだけだった。室内の調度品は全て黄金でできており、寝台の布団も全て錦である。別の建物に行くと、建物自体が黄金でできている。中庭にはこの建物を建てる際に余ったと思われる金の屑が、うずたかく積もっていた。
 袁晁ら海賊はここに誰もいないのを確かめると、先を争って調度品を奪い始めた。その時、突然黄金の建物の中から一人の女が走り出てきた。一見して普通の女でないことは明らかであった。女は海賊らを見回して言った。
「そなた達は海賊袁晁の仲間か?何故にここに参った?この品と何の関わりがあって奪うのじゃ?そなた達はあの犬をただの犬だと思っているであろう。違うぞよ、あれらは龍じゃ。そなた達の奪った品など少しも惜しゅうはない。ただ、あの龍どもがひとたび怒れば、そなた達は確実に死ぬるぞ。早く奪った品を持って、もと来た所へ戻ることじゃな。ほれ、早う帰れ」
 海賊らは整列してこの女に拝礼した。袁晁は心中、不審を抱いて自分の正体を明らかにしなかった。海賊らはそれぞれ自分の取り分を持つと船へ戻る用意をした。一人が女に訊ねた。
「一体ここはどこですか?」
 女は答えた。
「ここは鏡湖山の慈心仙人が修行なさっておられる所じゃ。そなた達、いつまでも袁晁と海賊を働いていると、十日もしない内に天罰が下るぞよ。以後は慎むが良かろう」
 海賊らは女に船を故郷へ帰してくれるよう頼んだ。女は快諾すると振り向いて大きく手を振った。すると突然風が湧き起こった。海賊らはまた女を拝して謝意を述べると、急いで山を下りて船へ戻った。そして、帆を揚げると風に乗って帰路についたのであった。振り返ると、ただ茫茫とした海原が広がるだけで島は影も形もなくなっていた。

 数日後、船はつつがなく臨海県に着いた。袁晁と海賊らはその後も行いを改めず、遂に官軍に捕殺されたのであった。

(唐『広異記』)