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ドンッ!


 

 京(おうけい)は宜君(注:陜西省)の砲手であった。その日は参将(注:上級武官)が役所を出る時に号令の大砲を放つことになっていた。王京は準備を整え、手馴れた様子で役所の外門に並んだ三門の大砲に次々に点火していった。天地を震わせるような砲声が二度響いた。
「あれ?」
 大砲は三門あるのに砲声は二度しか響かない。見れば、第二門と第三門の大砲の砲口からは硝煙(しょうえん)がもうもうと上がっているのだが、第一砲は何ごともなかったように沈黙している。もう一度点火してみても、第一門の大砲は沈黙したままであった。焦る王京の目の前を参将が通り過ぎていった。
 責任を問われるのを恐れた王京はつま先立ちして砲口を覗きこんだ。その時である。
「ドォウンッ!!」
 ものすごい轟音がしたかと思うと、王京は吹き飛ばされて地べたに昏倒(こんとう)した。同僚がこれを背負って家まで運んだのだが、皮膚は煤(すす)で真っ黒になり、両の目だけがギラギラと光っている。帽子は十五里(注:現在の7.5キロ)も離れた外堀の守備兵の足元まで飛ばされていた。

 半年ほどしてようやく傷はいえたのだが、顔には火傷の跡が残り、まるで豚のレバーのような色になっていた。その上に青黒い痣(あざ)が数百と散り、蓮(はちす)のようになってしまった。
 頭の方はといえば、すっかりやられてしまい、妻子すらわからなくなっていた。親戚知人はなおさらであった。喜怒哀楽の感情をすべて失い、話もしなければ笑いもせず、自分で歩くこともできず、坐るか寝ることしかできなかった。
 王京は人が会いに来たり、一人で部屋にいる時、奇妙な仕草をしてみせた。両手を高く挙げて口を大きく開いてこう叫ぶのである。
「ドンッ!」

(清『夜譚随録』)