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 康(注:現在の江西省)に任考之(じんこうし)という人がいた。この人が舟に使う材木を切り出している時、社(やしろ)の神木の上に一匹の猿がいるのを見つけた。
 猿の腹は丸くせり出し、どうも身重のようである。面白半分に考之は木によじ登ると、この猿を追いかけた。猿は上へ上へと逃げたが、何と言っても木は一本だけで周囲に飛び移ろうにも他の木はない。もう逃れられぬと観念した猿は考之の方に振り向くと、目にいっぱいの涙を浮かべながら左手で枝を抱えて右手で自分の腹を撫でた。考之は猿の後ろ足を引っつかんで、そのまま地べたに叩き付けて殺した。戯れにその腹を割いてみると、腹の子は産まれる直前であった。
 その夜、考之の夢枕に神と名乗る男が立ち、猿を殺したことを詰(なじ)った。
 それから考之は原因不明の病に罹り、何十日も患った。初めは狂ったような様子で訳の分からないことをブツブツ呟いていたのだが、だんだん背が曲り、口が大きく裂けて、虎のような姿に変わっていった。毛や爪もすっかり生え揃い、声も虎の咆哮に変わったかと思うと、やにわに山に駆け込んだきり、行方知れずとなった。

(六朝『祖冲之述異記』)