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麗娟


 

 の武帝の後宮に麗娟という宮女がいた。年は十四歳、玉の肌膚(はだえ)に吐く息は蘭よりも芳しく、帝の深い寵愛を受けていた。帝は麗娟に紐や帯を身に着けることを禁じた。紐や帯がその肌膚に痕をつけることを恐れたのである。
 麗娟は歌舞に秀で、その歌うたびに楽人の李延年が唱和した。芝生殿で廻風の曲を歌った時には、俄に風が沸き起こり、庭の花が皆舞い落ちてしまった。
 帝はいつも麗娟を帳の中に置いていた。その体を塵や埃が汚すのを恐れたのである。
麗娟の体は華奢で、ちょっとの風にも耐えかねる風情があった。帝は常にその袂を帯で繋ぎとめて重幕の中に閉じ込めていた。麗娟が風に乗って天に昇ってしまうのを恐れたのである。
 麗娟はいつも琥珀の佩(はい、注:帯に吊るす装身具)を裙子(スカート)の中に下げていた。このことは誰も知らなかった。動くたびに琥珀が打ち合って、涼やかな音色が響いた。麗娟はこれを自分の骨が発する音だと言った。
 後宮の人は皆、これを不思議がった。

(漢『漢武洞冥記』)