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 康(注:現在の南京)に酢を売って生活している某(なにがし)という男がいた。猫を一匹飼っていたのだが、この猫ときたら非常に俊敏で、某は我が子のように可愛がっていた。

 六月のことであった。この猫が突然、死んでしまった。某は猫の死骸を捨てるに忍びず、手元に置いていた。しかし、何といっても暑い季節である。数日もすると死骸は腐り、強烈な腐臭を発するようになった。さしもの某も耐えられなくなり、死骸を用水路に捨てることにした。
 猫の死骸を水に投げ込んで手を合わせて見送っていると、死んだはずの猫の体がピクリと動いた。水に入れられたショックで生き返ったのである。驚いた某は用水路に飛び込んで、猫を救おうとした。しかし、根っからのカナヅチであった某は溺れてしまった。溺れながらも猫の体だけは岸に差し上げたのだが、そのまま力尽きて亡くなってしまった。猫はと言えば、自分だけさっさと岸に上がり、そのまま駆け去ろうとしていた。
 その一部始終を通りかかった地回りの役人が見ていた。不審に思った役人は証拠物件として猫を捕え、縄で縛り上げると番所の牢にぶち込んだ。それから上役に事件を報告すべく出向いた。
 地回りが番所に戻ると、猫の姿は消えていた。
 縄を食いちぎり、壁を齧って穴を開けて逃げた後だった。

(宋『稽神録』)