海島の馬人


 

 年前(注:十六世紀当時)のことである。  一艘の大船が外海から崇明(注:現在の上海付近)に漂着した。船内には乗員が七人いたが、巡検はこれを海賊と見なして逮捕した。取調べを受けることになった七人が答えて言うには、
「私どもは広東の海商でございます。船で西洋に乗り出したのですが、暴風にあってここに漂着いたしました。海賊ではありません」
 とのこと。上官の裁決を仰いだところ、故郷に送還せよ、との命令が下った。
 後に自ら語るところによれば、彼等は外海で甚だ奇妙なものを見たそうである。
 ある島に立ち寄った時のことであった。船を入り江に停泊させようとしていたところへ、突然四、五体の奇妙な姿が現れた。人間の体に馬の頭をした怪物であった。その怪物は水に飛び込むと、船に向かって泳いできた。そして、船の舷側(げんそく)から甲板に頭をもぐり込ませてハァ、ハァとうめき声を上げた。びっくりした一人が刀を振るって、その一体の首を切り落としたところ、ほかの怪物は泳ぎ去った。おそらく仲間を呼び集めて復讐に戻ってくるだろうと思い、急いで纜(ともづな)を解いて出帆した。やれやれと思って島を振り返ると、百体あまりの馬頭の怪物が水際に集まっていた。何体かは水に飛び込み、船を追いかけてくる。うまい具合に風が吹いてきたので、それに乗って逃げることができた。
 もしも逃げ遅れていたら、食い殺されていただろうとのことであった。

(明『庚巳編』)