美食


 

 撫(じゅんぶ)の王亶望(おうせんぼう)は美食家で知られていた。彼が特に好んだのは驢馬(ろば)肉の千切り炒めである。「千切り炒め」というと簡単な料理のように思えるが、美食家の好むもの、何とも凝りに凝ったものであった。レシピを書き出すので、興味のある方は試してみるとよい。
 用意するものは生きた驢馬である。十分肥ったのを数頭用意していただきたい。そうすれば、食べたい時にすぐ食卓に並べられる。専属の飼育係も準備しよう。あなたのすることは、ただ、
「驢馬肉の千切り炒めを作れ」
 と言うだけである。あとは待つだけ。では、厨房の方をのぞいてみよう。
 あなたの命令を受けた飼育係は早速、食べごろの一頭を選ぶ。そして、肉を一塊削ぎ落として調理する。もちろん驢馬は生かしたままである。不運な驢馬は血みどろになるが、傷に焼き鏝(こて)をあてれば血は止まるから心配することはない。そのまま飼い続けて傷が治った頃にまた肉を削げばよい。何とも経済的ではないか。
 また、王亶望はアヒル料理も好んだ。調理法は北京ダックと同じ、飼育法もほとんど同じであるが、少々工夫が凝らされている。アヒルを動けないようにするのである。
 紹興酒の甕(かめ)の底を抜き、そこにアヒルを入れ、甕の口から首だけ出るようにする。そうしておいて、甕の底を泥でふさぐ。こうしておけばアヒルが動くことはない。なお、小さな穴を開けておくのを忘れないように。そこから糞を外に出すのである。
 餌は脂身と飯を与えるとよい。六、七日もすれば十分に肥って食べごろになる。こうして飼ったアヒルの肉は軟らかで、まるで豆腐のようである。
 余談ではあるが、王亶望の家では豆腐を所望すると、このアヒルを二羽つぶしてスープで煮て食卓に供するという。
 いずれも簡単に出来るので、一度お試しあれ。

(清『清朝野史大観』)