屏風


 

 和年間(806〜820)の初めのことである。

 ある士人が酔って広間の寝台で寝ていた。家中寝静まった頃、耳元で何やら笑いさんざめく声が聞こえる。夢うつつに目を開けると、大勢の美女達が手を取り合って踊っていた。真ん中にいる美女が足を踏み鳴らし、手を打ちながら歌った。

  長安女児踏春陽  長安娘の舞い姿
  無處春陽不断腸  春の陽射しはせつなくて
  舞袖弓腰渾忘却  舞う袖も弓の腰つきも忘れ果て
  蛾眉空帯九秋霜  額に残るは空しき歳月

  双鬟を結い上げた年若の美女が不思議そうに言った。
「ねえ、弓の腰つきってどんなのかしら?」
 すると、歌っていた女が笑って答えた。
「あら、私がさっきしたのを見てなかったの?」
 そう言って、両手を伸べて体を反らせた。美女の細い腰は柳のようにしなやかで、そのまま頭が床に届いた。その姿はまるでコンパスのようであった。
 士人が咳払いをすると、美女達の姿は消えた。起き上がってみると、寝台の前に置かれた古い屏風が目に入った。

 そこには、先ほどの美女達が手を取り合って踊っている姿が描かれていた。

(唐『酉陽雑俎』)