の斉王芳(239〜254)の時のことである。

 中山(注:現在の河北省)に王周南という者がいた。襄邑(じょうゆう、注:河南省)の長官に任命されて赴任した。
 ある日、周南が役所の執務室に一人でいると、壁の穴からチョロチョロと鼠が這い出してきた。この鼠は周南の顔をキッとにらみ付けると、人間の言葉を発した。

「おい、周南、そなたは某月某日に死ぬるぞ」

 もちろん周南は驚いたが、何とも答えないでいると、鼠はさっと穴に引っ込んだ。
 鼠に指定された期日になった。当日の朝、周南が鼠の穴に注目していると、果してまた鼠が這い出してきた。今度は冠をかぶり、黒い官服を着込んだ正装である。
「周南、そなたは今日の正午に死ぬるぞ」
 周南はこの時も何とも返答しなかった。鼠はそそくさと穴へ引っ込んだ。 正午になった。鼠はまた、正装して現れた。
「周南、そなたは何とも答えない。ワシはどう言えばよいのじゃ」
 それから、チュゥッと一声残してひっくり返った。その途端、衣冠は消えてなくなった。そこには何の変哲もない鼠が一匹、倒れているだけであっ た。

(六朝『幽明録』)