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水酉


 

 興の老酒は夏の禹の部下の水酉(すいゆう)という人が作ったという。

 水酉は幼いころ、越州(注:現在の紹興)の壺觴(こしょう)村に住んでいた。この村は大きな山を背にして大きな湖に面していた。水酉と弟の米曹(べいそう)は異母兄弟ではあったが、非常に仲がよかった。しかし、水酉の継母にあたる米曹の母はつらく当たり、食べるものから着るものまで全て差別した。
 春が夏に代わるある日のこと、継母は米曹に羊を放牧させ、水酉には草を刈らせた。その時、こう言った。
「羊が満腹したら戻ってきていいよ。草はどっさり刈らなければ、戻っちゃいけないよ」
 そして、昼食として水酉には挽いた麦を炊いたのを碗に半分だけ持たせ、米曹には碗一杯の糯米を持たせた。
 兄弟は道々話しながら歩くうちに、大きな湖の畔にやって来た。ここなら水草も豊富なので、兄弟はここで与えられた仕事をすることにした。一人は羊を放牧し、一人は草を刈り始めた。昼になって二人は持ってきた昼食をとることにしたのだが、米曹は兄の貧しい昼食を見ると悲しくなって、自分の糯米を兄の碗に分けてやった。兄は食べるわけにはいかないと、弟に返す。そんなことを繰り返すうちに麦と糯米はすっかり混ざってしまった。
 この時、突然、空模様が変わった。黒雲が湧き起こり、土砂降りになった。慌てた二人は碗を置いたまま雨宿りの場所を探した。しばらくすると雨は止み、兄弟は昼食を取りに戻ろうと雨宿りの場所から出た。すると、何ともいえないよい香りが漂ってきた。香りにひかれた二人が置きっぱなしにしていた碗を手に取ると、二つの碗の中身は水に漬かってドロドロの粥になっていた。よい香りに誘われるままに口を付けてみると、そのうまいこと。思わずうっとりしてしまった。兄弟は相談して一鉢は残しておいて、家に持ち帰って母に味見してもらうことにした。
 夕方、羊は腹一杯になって戻ってきた。草もどっさり刈った。兄弟は機嫌良く帰宅した。家で待っていた継母はとこからか良い香りが漂ってくるので不思議に思っていると、兄弟が碗を捧げて戻ってきた。彼女は碗を受け取って一口すすると、気持ちが爽やかになった。理由を聞くうちに彼女の心からは水酉に対する憎しみが消え、以来、我が子と別け隔てなく接した。そして、兄弟に湖の水を汲んでこさせると、大量の粥を作った。

 後に水酉は禹に従って治水工事に携わった。仲間達が疲労困憊(ひろうこんぱい)している時には、例のお手製の粥を飲ませて皆を元気づけた。仲間達はこのよい香りのする粥のおかげで力を取り戻したのである。
 十三年が過ぎ、仲間達は水酉の二文字から新たな漢字を合成して、その不思議な粥の記念にした。さんずいに酉、すなわち“酒”という文字を作ったのである。

(『紹興市故事巻』より)