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亡き父帰る


 

 徽(あんき)の人、夏侯文規(かこうぶんき)は都に単身赴任中に亡くなったのだが、一年経って実家に戻ってきた。子牛の牽く車に乗り、数十人もの従者を連れた結構な羽振りであった。
「今は北海太守をしておる」
 文規はそう言った。幽鬼といえども父は父、というわけで家族が早速もてなしのご馳走を用意すると、文規はおいしそうに平らげた。その姿は生前と何の変わりもなかったのだが、帰った後に改めて見てみると料理も酒も少しも減らずに残っていた。
 文規の最初に戻ってきた時、立ち去る段になって家族が泣いて引き止めると、
「まあまあ泣くな。すぐ戻るから」
 と言った。その言葉通り、一ヶ月、間が空いても四、五十日に一度は戻ってきて半日ほど家で過ごすようになった。文規の従者は皆、赤い着物を着た小人で、家に着くと籬(まがき)の間や脇部屋に姿を消し、帰る時に家族が呼びかけるとどこからともなく姿を現すのが常であった。
 家族もしだいに慣れてきて、これを当たり前のことと思うようになった。生前も単身赴任が多く、たまにしか戻ってこなかったのだから、文規がすでに死者だという点を除けば、生活そのものには何の変化もなかったのである。
 さて、文規には幼い孫がいたのだが、これをあやそうと思って家族に連れて来させた。従者の小人が抱き取って文規に渡した。すると子供はたちまちぐったりと気を失ってしまった。幽鬼の放つ陰気に耐えられなかったのである。
「やはり子供には毒か」
 文規が水を口に含んでプッと吹きかけたところ、子供はすぐに息を吹き返した。
 ある時、文規は庭の桃の木を指して言った。
「この桃はワシが昔、植えたものだが、今ではいい実が成っているようだな」
 妻が、
「そう言えば亡者は桃を恐れると聞いておりますが、あなたは恐ろしくないのですか?」
 と問うと、
「うむ。東南に枝が二尺八寸伸びて太陽に向いているのは確かに苦手だ。ほかのは何ともない」
 と答えた。
 またある時、文規はにんにくの皮が地面に落ちていたのを目ざとく見つけると、早く捨てるよう命じた。
 幽鬼はどうやらにんにくと東南に枝の伸びた桃の木が苦手なようである。

(六朝『甄異傳』)