Make your own free website on Tripod.com

 

血液鑑定


 

 西で奇妙な訴訟事件が起こった。叔父が兄の子供、つまり実の甥が兄の子供ではない、とお上に訴え出たのである。
 ことの真相はこうである。訴えられた兄は故郷を離れて他郷で商いをしており、実家の財産の管理は弟に任せていた。妻を娶ったのも他郷、子供をもうけたのも他郷で、気がつけば故郷を離れてから十年余りも経っていた。他郷で娶った妻は山西の土を踏むことなく病で世を去り、兄は子供を連れて故郷を戻ることにした。この知らせを受けた弟は焦った。実のところ、兄が戻って来ないのをいいことに、かなりの財産を勝手に処分していた。そこで、兄が赤の他人を自分の子供と偽っており、兄とその子供には財産を相続権利はない、と誣告(ぶこく)したのである。
 両者の言い分は真っ向から対立し、訴訟は紛糾した。裁きにあたった県知事がこれまた無能で、両者の言い分の裏づけをとるという基本的なことをしないのである。県知事がことの真偽(しんぎ)を判定するためにとった方法は、水に肉親同士の血をたらして固まるかどうかで見分ける古くから伝わる一種の血液鑑定であった。
 一同の見守る中、兄とその息子の血は見事に固まった。弟の方は誣告罪で鞭打ちの刑に処せられることになった。思わぬ展開に慌てた弟は鑑定法そのものに異議を申し立て、自分達親子で確かめたい、と言い出した。弟親子の血は水の中で分離したままであった。
 弟は鑑定法が無効であると言い立て、再び兄を役所に突き出して控訴に持ち込んだ。
「あれは財産欲しさに、人の道も何も捨ててしもうた」
 村人の非難は弟に集中した。
「あの鑑定法が無効じゃと?笑わせるな」
 実は、弟の嫁は以前から某(なにがし)という間男(まおとこ)がおり、どうも子供はその相手の種らしいのである。それを知らないのは当の弟だけであった。
「血が固まるわけがなかろうが」
 村人は衆議して弟の妻と某の不義密通を訴え出ることにした。この思わぬ結果に、弟は狼狽し恥じ入るだけであった。いたたまれなくなった弟は妻と子をたたき出し、家を捨てて蒸発してしまった。弟の財産は、兄のものとなった。

(清『閲微草堂筆記』)