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鸚鵡


 

 右(注:現在の青海省東端)に劉潜という富農がいた。劉潜には今年十五才になる娘が一人あるだけだった。類まれな美人で、結婚を申し込む者が跡を絶たなかった。劉潜は娘を非常に愛していたので、どこにも嫁がせず、手元に置いていた。
 劉潜の家では一羽の鸚鵡を飼っていた。よく人の言葉を真似たため、家人に可愛がられていた。中でも鸚鵡を一番可愛がったのは娘で、いつも鸚鵡の相手になり、言葉を教え込んで倦まなかった。いつの頃からか娘は経文を鸚鵡と共に経を唱えようになった。鸚鵡が間違えると、その都度、娘が正した。経文を唱える時には必ず香を焚いたのであった。
 ある日、鸚鵡は娘に言った。
「籠を開けてちょうだい。ここにはあなたが住めばいいわ。私は行かなくちゃ」
 鸚鵡の言葉に娘は驚いた。
「お前、何を言ってるの?」
 鸚鵡は言った。
「あなたはそもそも私の同類なの。たまたま私はこの家の飼い鳥として、あなたはこの家の娘として生まれただけ。さあ、仲間の所に戻らなきゃ。私の言ってることを変だなんて思わないでね。人間にはわからなくても、私にはわかるのよ」
 びっくりした娘は両親に鸚鵡の言葉を告げた。両親は娘に禍が及ぶのを恐れ、籠を開けて鸚鵡を放した。自由になった鸚鵡は空高く舞い上がり、何処へか飛び去った。
 それから両親は娘に何か起こることを心配して朝晩、厳重に監視した。三日目に理由もなく娘は身罷った。突然の死だった。
 両親の悲嘆ぶりは甚だしいもので、終日遺骸を撫でさすっては泣いていた。しかし、娘が息を吹き返すことはなかった。そこで、泣く泣く娘の遺骸を柩に納めたのであった。
 埋葬する段になって、両親が最後に娘の顔を見ようと柩の蓋を持ち上げた時、突然、一羽の白い鸚鵡が羽ばたき出た。鸚鵡はそのまま部屋を一巡りして窓辺に止まり、しばらく両親の方を何か物言いたげにジッと見つめていたが、やがて空高く舞い上がり、見えなくなった。
 柩の中は空になっていた。

(唐『大唐奇事』)