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真面目な番頭さん(三)


 

 の方は王招宣の寵愛を失ってからというもの、いるにいたたまれず、早くよそへ嫁にやってくれないものかと心待ちにしていた。ただ、色々話が持ち込まれても王招宣が体面を重んじて中々うんと言わない。それ相応の家でなければ嫁に出さないつもりなのである。もっとも、よそへ出たい理由は他にもあったので、女もだんだん焦り出していた。
 そんなある日、張と李、二人の媒婆が縁談を持ち込んできた。相手は手広く糸屋を営む張員外。王招宣もこの話には大乗り気である。女も張員外が跡取りの欲しい壮年の男やもめだと聞いて承知した。と言うわけで期待に胸ふくらませて張家の門をくぐったのである。
 洞房(ねや)で女は張員外に蓋頭(かずき)を取ってもらうと、しとやかに顔を上げた。初めての顔合わせである。花嫁は色白く目元涼しい、さすがは招宣ご寵愛の、と思わせる美女であった。張員外は花嫁の若さと美貌に大喜びで呆けたようにニタニタ笑っていた。
 花嫁の方はも呆けたようになってしまった。なぜなら目の前に髪も眉も真っ白な爺さんが花婿の装いで坐っているのである。
(たしか相手は私より二十歳くらい上だと聞いてたけど…)
 今さら後戻りもできず、花嫁はわけのわからぬまま張員外の妾となったのであった。

 婚礼から一月余り経ったある日、出入りの道士がやって来た。
「今日は施主様の誕生日ですので、祈祷文を持参いたしました」
 もともと員外は一日、十五日と自分の誕生日にはいつも祈祷文を奉納していた。その祈祷文を受け取って開いて見た女は、突然はらはらと二筋の涙を流した。そこには員外の年齢が六十歳と書かれていたのである。女は媒婆の舌先三寸に乗せられて、一生を誤ったことを嘆いた。
 以来、員外は見れば見るほど爺むさくなっていくようである。それもそのはず、若い妾を相手に日夜張り切っているのだから、腰も痛くなれば目もしょぼつく、耳も遠くなるし、洟(はな)も垂らすというものである。
 ある日、張員外が女に、
「今日はちょっと出かけるよ、お前は留守番をしておいで」
 と言うので、女の方では強いて寂しそうな素振りをして、
「早く帰って来て下さいね」
 とだけ答えた。張員外が行ってしまうと女は一人静かに物思いにふけった。
(沢山の持参金を持ちながらこんな爺さんに嫁入るなんて…)
 そう思うと気分がめいってきた。嫁入りの際について来た小間使いがそれと見て、
「奥様、お外でも眺められてはいかがです?気分も晴れますよ」
 と勧めるので、そうすることにした。
 張家の表は店舗になっており、両側の壁は作り付けの戸棚で帳場の奥には紫の絹の簾が掛けてあった。女は小間使いに簾を下ろさせると、その奥に立って店の様子を見ることにした。
 帳場で切り盛りしていた二人の番頭は、奥の簾が下りているのを見ると尋ねた。
「どうなされたのでしょう?」
 小間使いが答えた。
「奥様が外をご覧になりたいとおっしゃられまして」
 二人の番頭は奥様のお出ましということで、慌ててお目通りの挨拶をした。外から簾の中を窺うことは出来ないが、簾の中からは外の様子がよく見えた。女が二人の番頭の様子を仔細に眺めたところ、一人は李慶といって五十歳くらいの中年男。もう一人は張勝といい、こちらは三十そこそこの若者である。
 番頭が二人とも中年男だったらよかったのだが、もう一人が若かったばかりにとんでもない事件に発展するのであった。

 

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