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真面目な番頭さん(四)


 

 はまず李慶に声を掛けた。
「旦那様のお宅に来て何年になるの?」
 李慶が答えた。
「かれこれ三十年余りになります」
「旦那様はよくしてくれているかしら?」
「飲むものから食べるものまで、すべて旦那様に面倒を見て頂いております」
 女は今度は張勝に同じ質問をした。
「父の代からおりまして二十年になります。私自身はご奉公に上がって十年余りになります」
「待遇はどうかしら?」
「一家を挙げて衣食すべて旦那様のお世話になっております」
 二人の番頭の話を聞き終わると女は、
「番頭さん達、ちょっと待ってて」
 と言って奥へ引っ込んだが、すぐに出てきて李慶に小さな包みを手渡した。李慶は袖を振ると手を覆って直接女の手に触れないようにしてから、うやうやしく受け取った。また、張勝にも、
「まさか李さんにだけあげてあなたにはあげないなんてことはありませんよ。大した物ではないけど、まあ役には立つでしょう」
 と言いながら小さな包みをくれた。張勝は李慶にならって包みを受け取って礼を述べた。女は店の様子を一渡り眺めてから奥へ入って行った。二人の番頭は、また仕事に戻った。
 二人の受け取った包みの中身であるが、実は李慶の方は銀貨十文で張勝の方は金貨十文という風に差をつけてあった。しかし、二人ともお互いに同じ物を貰ったと思っていた。
 閉店の時間になり、二人の番頭達は一日の売り上げや仕入れ、貸し付けを帳簿につけると張員外の所に見せに来た。張員外はすべて目を通してから署名捺印した。これで一日の仕事は終わりであった。

 さて、二人の番頭はもともと交替で店に宿直していたのだが、今日は張勝の宿直の日に当たっていた。張勝は外に面した一間に入ると灯りを点してしばらくボンヤリ坐っていたが、別に変わったこともないので寝る用意を始めた。その時、誰かが戸を叩いた。
「誰?」
 張勝が尋ねると、
「早く開けて下さい、お話があります」
 との答え。張勝が戸を開けると声の主はサッと滑り込んできて、灯りの向こうに立った。見ると、娘である。張勝はびっくりして言った。
「姉さん、今時分何用で?」
 娘が答えた。
「私の用で来たのではありません。今朝、奥様があなたに下されたものを私に教えて下さいな」
「奥様は私に金貨を十文下されました。あなたをよこされたのはそれを返せと言うことでしょうか?」
「ご心配には及びません。奥様は今度またあなたに別の物を下さろうとおっしゃって私をおよこしになられました」
 そう言って娘は背負った包みを下ろして開いた。中には着物が何枚か入っていた。
「こちらはあなたがお召しになって下さい。こちらの女物はお母様にどうぞ」
 そして娘は出て行ったが、またすぐに戻って来た。
「大事な物を忘れてました」
 娘は袖の中から五十両の銀塊を取り出すと着物の包みに押し込んで出て行った。
 理由もなくこれだけの高価な物を貰ってしまった張勝はわけが分からず、一晩中まんじりともせず、ああだこうだと思いを廻らしていた。

 

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