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真面目な番頭さん(六)


 

 親の許可をもらって、張勝は幼なじみの王二哥と灯籠見物に出かけた。端門に着くと、ちょうど帝からの御酒が下され、お金がまかれているところへぶつかり、大勢の人でごった返していた。その人出を見て王二哥が言った。
「すごい人だなあ。これじゃ灯籠は見えやしない。もみくちゃにされるのがおちだよ。場所を変えた方がいいな。うん、あそこにも山車が一つ出てるから」
 張勝が尋ねた。
「あそこって?」
「あれ、知らないの?王招宣のお屋敷でも小さな山車を出してるんだ。今夜も灯を点けてるはずだ」
 と言うことで、二人は端門を離れて王招宣の屋敷へと向かった。王招宣の屋敷付近も大層な賑わいであった。二人は人の波にもみくちゃにされ、とうとう離れ離れになってしまった。
「二哥、どこにいるの?」
 と張勝が何度呼ばわっても王二哥は見つからなかった。
「やれやれ、母さんにあれだけうるさく言われてたのになあ。はぐれちまった。一人で帰ったら怒られるかもなあ。もしも二哥の奴が先に帰ってたりしたらもっと怒られるなあ…」
 もう、灯籠も目に入らず、一人でウロウロしていたが、突然、
「あそこに見えるのは張の旦那のお宅だ。そう言えば毎年元宵節には店を閉めて灯籠を出してたなあ。今日も、まだ灯を消してないだろう」
 と思い出すと、母親にあれだけ張員外の家には近付かないよう言われていたにもかかわらず、足はそちらに向かっていた。そのまま張員外の家の前までやって来た張勝は驚いた。何と、張員外の店の戸は十字に竹竿で堅く閉ざされ、お上の提灯が掛けられているのである。戸には貼り紙が一枚あり、
「開封府左軍巡院布告。張士廉に法に触れる行いあるにより…」
 と読めた。これを読んでますます張勝は驚いた。
「家財没収だなんて旦那様は一体何をしたんだ?」
 と訝しがっている折も折、突然、怒声が飛んだ。
「どこの者だ?こんな時分に大胆にも貼り紙を読みに来るとはどういうつもりだ?」
 驚いた張勝はその場を駆け出した。横丁の入口に来たので、そのまま回り道して帰るつもりであった。時刻は二更(注:夜の十時頃)近くになっており、明月が皓々と夜空を照らしていた。
「もう遅いや、帰ろう。母さんもきっとわかってくれるさ」
 と張勝が行こうとした時、後ろから声を掛けられた。
「張の番頭さん、あなたをお呼びの方がお待ちですよ」
 振り向くと居酒屋の手代がニコニコ笑って立っていた。

 

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