あいさつ


 

 戚同士が道で出会った。一人は人並みはずれたせっかちで、一人は人並みはずれてのんびりした性格であった。
 まず、のんびりした方がおもむろに深々と頭を下げながら口上を述べた。
「正月にごあいさつにまかりこしました時分にはお邪魔をいたしました。元宵(げんしょう、注:正月の十五日)の燈篭見物の折にもお邪魔をさせていただき、端午の節句にもまたまたお邪魔して龍船競争を見物いたしました。中秋(注:八月十五日)のお月見にもお邪魔をいたし、重陽の節句(注:九月九日)にもお邪魔をいたし、お節句ごとにお邪魔をさせていただいております。しかるにこちらは何のお礼もいたしておりませんで、いやはや何ともお恥ずかしい次第で…」
 言い終わっておもむろに頭を上げてみれば、せっかちな方はその口上の長さに嫌気がさしてとっくに行ってしまっていた。そこで傍らにいた人に、
「いつ行ってしまわれたのでしょう?」
 と問うと、
「燈篭見物のあとだったから、かれこれ半年余りになりますかねえ」

(清『笑林広記』)