のっぺらぼう


 

 京西安門内の西十庫には兵士達の宿直所がある。
 その晩、兵士の某も同僚十余人とともに宿直をしていた。特にすることもないので、酒を持ち込んで酌み交わすうち、かなり酔いが回った。
 二更(注:夜十時頃)を過ぎた頃、某は小用を足しに立った。宿直所の傍らには長い横筋があるのだが、月明りの下、そこにうずくまる人影がぼんやりと見えた。それは紅い衣の婦人で、塀の下にしゃがみこんで小用を足しているようである。某は相当酔っており、悪さをしてやろうと思い、婦人の背後にそっと近づいていきなり抱きついた。その途端、婦人がくるりと振り向いた。
 婦人の顔はノッペリと真っ白で、目も鼻も口もなく、まるで豆腐のようであった。
 某は仰天して気絶した。

 同僚達は某が小用に出たままなかなか戻ってこないのを心配して、様子を見に出た。すると、某が塀の下で気を失って倒れている。宿直所に担ぎ込んで介抱したところ、しばらくして意識を取り戻して、自分の体験を話したのである。

(清『夜譚随録』)