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にんにくを担いだ爺さん


 

 陽県(注:現河南省)に楊二という若旦那がいた。たいそうな力持ちで、両肩で米の運搬船を担ぐことができるほどであった。兵士数百人が楊二を取り囲み、竿(さお)で突いたところ、竿の方が折れてしまった。このことがあってから、楊二の武勇はますます有名になった。
 楊二が取り巻きを引き連れて常州(注:現江蘇省)に武術を教えに行った。いつも練兵場で槍術や棒術を伝授したのだが、楊二の評判を聞きつけて 大勢の見物人が集まった。
 ある日、この練兵場ににんにくを担いだ爺さんが姿を現した。すっかり老いぼれて背中が曲がり、絶えず咳き込んでいた。この爺さん、楊二の武術をしばらく見た後、
「まだまだじゃな」
 と言って手を振った。これには周りが驚いてしまった。楊二はこのことを知ると、頭から湯気を立てんばかりに激怒した。
「おい、爺さん、こっちへ来い」
 楊二は爺さんを目の前に呼びつけると、拳を煉瓦塀に打ちつけた。拳は塀に一尺あまりもめり込んだ。
「爺さん、こんなことができるか?」
 そう言って楊二は胸を張った。すると爺さん、涼しい顔で、
「お前さんは塀を打つことはできても、人を打つことはできまい」
 と言う。これに楊二、ますますいきり立った。
「老いぼれめ、お前にオレの突きが受けられるか?ええい、くたばっても怨むなよ」
 爺さんは笑って、
「いつお迎えがきてもよい年じゃ。ワシがくたばってお前さんの誉れになるのなら、それもよかろうて」
 と答えると、見物人の前で証文をしたためた。
 楊二に三日間、鋭気を養わせると、爺さんは自ら木に体を縛りつけ、上着を開いて腹を露わにした。楊二は十歩ほど下がったところから勢いをつけて突進し、爺さんの腹に鉄拳を打ち込んだ。
 爺さんはうんとも寸とも言わなければ、身動き一つしない。練兵場を沈黙が覆った。
「小生が悪うござりました」
 そう叫んだのは楊二であった。楊二が爺さんに向かってペコペコ頭を下げて許しを乞うているのである。よく見てみると、楊二の拳は爺さんの腹にめり込んで抜けなくなっていた。
 爺さんが腹を突き出すと、楊二の体は練兵場の外にある石橋の向こうまで吹っ飛ばされた。爺さんはおもむろににんにくを背負うと、練兵場から立ち去った。
 誰もその名前を知らずじまいであった。

(清『子不語』)