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王生


 

 泰年間(765〜766)初めのことである。王生という人が楊州の孝感寺の北に住んでいた。
 ある夏の日、酔っ払って長椅子に横になり、そのまま寝てしまった。腹には薄い布団をかけていたが、暑かったので手は地面に垂らしていた。妻は風にあたって痺(しび)れの病にかかるだろうと思って、その手を布団の中に入れてやろうとした
 その時、突然、長椅子の前から巨大な手がにゅっと伸びてきたかと思うと王生の手をつかんだ。王生の体は巨大な手に引っ張られて地面に落ちたが、よほど熟睡していると見えて目覚める気配がない。その体はゆっくりと地面に引きずり込まれていった。
 妻は慌てて王生のもう一方の手に飛びつき、大声で家人を呼んだ。皆で王生の着物や腕を懸命に牽いたのだが、地面に裂け目でもあるように王生の体は吸い込まれていった。初めのうちはまだ衣や帯が残っていたが、やがてその体は完全に地面に呑み込まれてしまった。
 家人が刀で地面を二丈(注:一丈は約3メートル)ばかり掘り返したところ、古い骸骨が一体現れた。かれこれ数百年は経っていようかと思われた が、いかなる怪異なのかはわからなかった。

 結局、王生は見つからなかった。

(唐『酉陽雑俎』)