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消麺虫


 

 郡(注:現在の江蘇省)の陸という人は幼い頃から麺を食うべるが大好きであった。しかし、食べれば食べるほど痩せていくのが悩みの種であった。
 後に、陸は太学(注:官吏養成のための学校)の学生となって長安に住むことになった。ある時、一群の胡人が酒を片手に陸を訪ねてきた。胡人達は陸のために宴を開き、金や絹の反物を贈って長寿を祝おうとした。陸はもらう理由がないから、と受け取るのを拒んだ。しかし、胡人達に押し切られてしぶしぶ受け取ることにした。胡人達が去ってから、この話を聞きつけた同窓生達が陸のもとにやって来て言った。
「胡人というものは利益のためなら人だって殺すときくぞ。他にも学生はたくさんいるのに、わざわざ君の所に来たというのは何か裏があるのかもしれないな。ひとまず、郊外に身を隠して様子を見た方がいいぞ」
 陸はこの忠告に従って長安郊外に身を潜めることにした。一ヶ月あまり経つと、どこで聞きつけたのか、また胡人達が訪ねてきた。
 不審な目を向ける陸に胡人の一人が言った。
「前はあなたが太学にいらしたので、申し上げたいことも申し上げることができませんでした。あなたが外に住まわれたことはこちらにとっても好都合です」
 陸が一体どういうことかと問うと、
「あなたは麺がお好きでしょう?」
「はい」
「あなたが麺を好んで召し上がられるのは、お腹の中に虫がいるからなんですよ。食べても食べても太らなかったのがその証拠です。今、お薬を差し上げます。このお薬を召し上がられれば、一匹の虫を吐き出されます。お話というのはここからです。その虫を是非とも売っていただきたいのです。もちろん、いいお値段でですよ」
 そう言って胡人は丸薬を一粒取り出した。陸は半信半疑でその丸薬を飲み下した。すると、喉の奥がムズムズして思わず咳き込んだ。途端に、長さ二寸余り、色は青くて何となく蛙のような虫を吐き出した。胡人はこの虫を指で摘み上げて言った。
「これは消麺虫と言い、天下の珍宝です。以前から太学の上空に宝気が立ち昇っておりまして、聞けばあなたは麺がお好きだという。で、お訪ねしたわけです。あなたがお姿をくらましても、宝気を辿ってすぐにその居場所は分かりましたよ」
 陸に麺を一斗余り持って来させると、虫の前に置いた。
「ご覧になって下さい」
 虫は瞬く間に麺を食い尽くしてしまった。胡人が言った。
「この虫は天地中和の気が凝固したものです。麺を好んで食うのは、原料たる麦が一年の天地の気を受けて成熟するからです。麺を食うことでおのれに天地の気を補充するのです」
「この虫を何に使うのです?」
「天下の全ての珍宝は皆、天地中和の気を受けているものです。この虫がいれば自ずとそのもとに天下の珍宝が集まるはずです」
 胡人はそう言い終えると、虫を筒に入れ、さらに筒を金の箱に納めて厳重に鍵をかけた。金銀や玉、緞子など約数万を陸に贈ると、金の箱を持って帰って行った。

 一年後、胡人達がまた陸を訪ねてきた。その頃、陸は胡人から送られた財宝を元手に邸宅や園林を買い入れて贅沢三昧の生活を送っていた。そして、彼は平凡な毎日に退屈しきっていた。
 胡人が言った。
「私共と一緒に海中に遊びませんか?海中の珍宝を探しに行きましょう」
 陸は死ぬほど退屈していたので、一も二もなく同意した。早速海辺に行くと、胡人達の仕立てた大船に乗り込んで海上に漕ぎ出した。胡人は油を鍋で煮立て、その中に例の消麺虫を入れた。
 虫を油で煮て七日経った黄昏(たそがれ)時、突然変化が起きた。海面に一人の童子が現れた。手には一寸余りの珠を盛った盆を捧げ持っている。胡人が一喝すると、童子は波間に消えた。次に美麗な玉女が現れた。手に数十顆の珠を盛った盆を捧げている。胡人がまた一喝すると、姿を消した。続いて冠を戴き霞衣をまとった仙人が姿を現した。二寸余りの珠を捧げ持っている。珠の光は空まで照らし、周囲数百歩の外まで明るく照らし出していた。胡人は陸に向ってニッコリ笑った。
「至宝が参りました」
 胡人は仙人から珠を受け取ると鍋の火を消して消麺虫を取り出したのだが、七日間油で煮られていたにもかかわらず、虫は元気に飛び跳ねていた。それを金の箱に納めてから、胡人は珠を懐に抱えて言った。
「さあ、宝捜しに行きますよ。しっかりついていらっしゃい」
 陸は胡人の帯を掴んで海中に入った。すると、不思議なことに珠の光に従って海が割れ、水族はいずれも水に従って退いた。そのまま龍宮の鮫室に入ると、そこには珍珠奇宝があふれ、思う存分に選び取ることができた。
 戻ってから、胡人はまた陸に厚く礼物を贈ったのであった。

(唐『宣室志』)