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逢瀬


 

 (なにがし)という壮士が湖広(ここう、注:現在の湖北湖南一帯のこと)の古寺に泊まっていた。
 ある夜、明月があまりに美しかったので、某は寺を出て辺りを散策した。ふと見ると、林の木々の間を何やらフワフワと飛んでいる。目を凝らしてみたところ、唐巾(とうきん、注:頭巾の一種)をかぶった人影であった。幽鬼ではないかと思って見ているうちに、その人影は鬱蒼(うっそう)と茂った松林の奥にある古い墓の中へ姿を消した。僵尸(キョンシー)だったのである。

 翌日、某は林に身を潜めて僵尸が古墓を出るのを待った。僵尸が出たすきに墓に忍び込んで、棺の蓋を隠してしまうつもりであった。僵尸は棺の蓋を失うと祟りをなす力がなくなる、と言われていたからである。
 二更(注:夜十時頃)を回った頃、果たして僵尸が古墓から姿を現した。どこか目的地があるように見えたので、その後をつけてみたところ、立派な楼門の前に出た。窓から紅い着物の女が僵尸に向って練り絹を垂らした。僵尸はその練り絹にすがって女のもとへ上っていった。僵尸と女は窓の中で何か語らっていたが、やがて奥へ姿を消した。
 某は急いで古墓に引き返すと、棺の蓋をはずして隠した。そして、松林に身を隠して僵尸の戻るのを待った。
 夜半に僵尸は戻って来た。棺の蓋がなくなっているのを知ると、慌てた様子で周囲を探し回った。しばらく探した後、僵尸は東の空を気にしながらもと来た道を戻っていた。某もその後を追った。
 僵尸は先ほどの楼門まで引き返すと、飛び跳ねながらわめき散らした。女も姿を現したのだが、東の空を見ながら何やら叫び、手を振って追い払うような素振りを見せた。その時、鶏がときを告げ、僵尸はそのままバッタリと道端に倒れた。

 朝になって人通りが出始めると、僵尸を見つけて大騒ぎになった。すぐ前に楼門の窓が開いているので訪ねてみると、それは周家の祠堂(しどう)であることがわかった。中には棺が一つ安置されており、その側に女の僵尸が倒れていた。
 集まった人々は僵尸が逢瀬を重ねていたことを知ると、再び怪異を起こさないよう二体の僵尸を一緒に焼いたのであった。

(清『子不語』)