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分鞋記(後編)


 

 の家人は早速、商人夫婦に教えてもらった尼寺へ赴いて、衣を干させてほしいと頼んだ。許しを得ると衣を干し、その下に持ってきた片方ずつの鞋(くつ)と履を並べて置いた。
 ちょうどそこへ一人の尼が通りかかったのだが、これが鞋と履を見るなり驚いた様子でたずねてきた。
「施主さま、この履物はどうなさったのです?」
「実は私の主人である参知政事さまが昔別れた奥方さまを探しておられるのです。この履物はその手がかりになる品です」
「参知政事さまのお名前は?」
「姓は程、名を鵬挙と申します」
 家人がそう告げると、尼の顔色が変わった。尼は鞋と履を片方ずつ取り出して見せた。家人が持ってきたものと合わせてみると、ぴったり対になる。尼はそれを見るなり涙を落とした。
「あなたこそ奥方さまです」
 家人は尼を拝し、一緒に程のもとへ帰ろうとすすめた。しかし、尼は、
「程さまが約束を果たして下さった、それだけで私は満足です。これで心置きなく余生を御仏にお仕えして過ごすことができます。程さまと奥さまには何とぞよろしくお伝えください」
 と言って寺を出ようとしない。
「何をおっしゃるのです?あなた以外に奥方さまがいらっしゃるはずがありましょうか。程さまは奥方さまへの義を重んじ、後添いはお迎えになっておられませんよ。さあ、一緒に帰りましょう」
 再三再四、言葉を尽くしてすすめたのだが、とうとう尼を連れ出すことはできなかった。家人は仕方なく一人で陝西に戻り、程へ一部始終を報告し た。
 程が妻のことを本省へ上申(じょうしん)すると、本省から興元府の太守に、礼物を整えて程の妻である尼を迎えに行くよう命令が下った。程の妻もそれ以上辞退しなかった。程の妻を載せた華やかな車馬の列は、程の待つ陝西へと向かった。

 たった六日の結婚生活の後、三十年以上も離れ離れになった夫婦はようやく再会を果たしたのであった。

(元『南村輟耕録』)

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