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 元献(あんげんけん)が宰相をやめて潁州(えいしゅう、注:現安徽省)の知事となった時のことである。
 ある日、この潁州に一人の旅の軽業師が姿を現し、晏元献の前で綱渡りの芸をいくつか披露した。最後に軽業師が綱を空中に投げ上げると、綱は天に向かってピンと立ち上がった。軽業師はその綱に飛びついてスルスルと登っていったのだが、その素早いこと、まるで風か雨のようであった。軽業師はそのまま空中を飛んで行き、姿を消した。
 晏元献はどうしたことかと大いに不審がった。その時、護衛の兵士が進み出て言った。
「以前、辺境守備に出た際、こういう業を見たことがありますので、その手口はよく存じております。どうか城門をすべてお閉め下さい。そうしておいてから、くまなく探せばきっと見つかります。しかし、この程度の妖術ならば役所の門を出ていることはないでしょう」
 晏元献はこれを聞き入れて、兵士たちに命令を下した。
「役所の門を閉じてくまなく調べるのだ。何か変わったところはないか、増えたものはないか、少しでも変わったものを見つけたら、構わず斧で切りつけよ」
 兵士たちは命令どおり役所の中をくまなく探したのだが、変わったところなど見つからない。最後に厩(うまや)まで来たところで兵士の一人が叫んだ。
「馬を繋ぐ杭が一本増えているぞ!!」
 見ればもともと五本だったはずの杭が六本に増えている。斧で切りつけると、
「ギャアァァァッ!」
 悲鳴とともに軽業師が地面に倒れた。

(宋『黙記』)