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画皮(二)


 

 こにいたのは一匹の妖怪であった。
 青い顔に鋸(のこぎり)のような歯をむき出した妖怪が寝台に人間の皮を広げ、その上に筆で美人の姿を描いていた。妖怪は絵を描き終わると、皮を一振りして着物を着るように頭からかぶった。すると、妖怪は王生が日夜狎(な)れ親しんだ、あの美人の姿になり変わった。
 王生は恐ろしさのあまり腰を抜かしてしまい、その場から這うようにして逃げ出した。先ほどの道士の姿を探しに出たのだが、どこにも見当たらない。あちこち探した挙句、ようやく郊外の空き地で見つけた。王生はがばとその前にひれ伏して、
「お助け下さい!」
 と懇願した。道士は、
「追い払って進ぜよう。あれもたいそう苦しんだ末、ようやく代わりを見つけたところなのじゃ。ワシも命まで取ろうとは思わぬ」
 と言うと、王生に払子(ほっす)を与え、寝室の入り口に掛けておくよう命じた。そして、青帝廟で会おうと約束して別れた。

 王生は帰宅しても恐ろしくて書斎に入ることができないので、今晩は妻の部屋で寝ることにした。入り口に払子を掛けるのを忘れなかった。
 初更(注:夜八時頃)を回った頃、外から妙な音が聞こえてきた。おびえきった王生は妻に代わりに外の様子をうかがわせた。妻が扉の隙間からのぞくと、果たしてあの女がやって来るところであった。
 女は部屋の入り口に掛けられている払子を見ると、ぴたりと足を止めた。それ以上近づくことができないようで、歯噛みしながらこちらをにらんでいる。しばらくそうしていたが、やがて立ち去った。
 女が行ってしまって安心していると、また戻ってきた。女は、
「腐れ道士め、これでオレを脅しているつもりか!そうはいかぬわ。折角、口に入れた獲物をむざむざ吐き出してたまるか!!」
 と言うやいなや、払子をつかみ取って引き裂くと、扉を破って中に飛び込んだ。そして、王生に飛びかかり、鋭い爪でその腹を裂き、心臓をつかみ出して姿を消した。
「誰か来て!!」
 妻の陳氏の悲鳴で、下女が灯りを手に駆けつけた。部屋は血の海となり、王生が無残な姿で倒れていた。陳氏はあまりの衝撃に言葉もなく、夫の死体に取りすがって涙を落とすばかりであった。

 翌日、陳氏は王生の弟の二郎を道士のもとへつかわし、王生が殺されたことを知らせた。道士は聞くなり激怒した。
「何と、ワシはもともとあやつを哀れに思って見逃してやろうとしておったのに、よくもひどいことを!!」
 道士は二郎に案内されて王生の家へやって来たが、しばらくあたりを見回してから言った。
「幸いあまり遠くへは行っていないようじゃ」
 そして、
「南の離れにはどなたがお住まいで?」
 とたずねた。二郎が、
「私が住まっておりますが」
 と答えると、道士は言った。
「今、あやつめはあなたのお宅におりますぞ」

 

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