賈似道の虐
宋末に権勢をふるった賈似道は、西湖の北岸の葛嶺(かつれい)に壮麗な邸を構えていた。
ある日、賈似道は大勢の姫妾(きしょう)を従えて、高楼から湖上の風景を眺めた。ちょうどその時、道士の装いに羽扇を手にした二人の若者が、小船を岸に寄せた。二人は連れ立って湖岸を散策し始めたのだが、その様子は何とも瀟洒(しょうしゃ)で好ましかった。
姫妾の一人が思わず、感嘆の声をあげた。
「何て綺麗な若衆でしょう」
すると、賈似道が、
「もし一緒になりたいのなら、結婚させてやろう」
と言った。くだんの姫妾は笑うだけで、答えなかった。
それからしばらくして、賈似道は箱を一つ持ってこさせると、姫妾達を面前に呼び集めた。
「あの者への祝いの品じゃ」
そう言って箱のふたを開かせた。箱の中にはあの姫妾の首が入っていた。
姫妾達はふるえおののいた。(元『銭塘遺事』)