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墓参


 

 辺の住民から聞いた話である。

 ある日、海中に突然高い山ができ、住民を驚かせた。
 同じ頃、一人の秀才が漁船に泊まり、手酌(てじゃく)で飲んでいた。夜もとっぷり更けた頃、一人の若者が現れた。若者は儒者の身なりをしてお り、こう名乗った。
「私、于子游(うしゆう)と申します」
 言葉つき、ふるまいがことのほか風雅であった。秀才はよい相手ができたと喜び、盃を勧めてともに酌み交わした。真夜中になって、若者は別れを告げて席を立った。秀才はそれをとどめた。
「どちらにお住まいなのです?こんな夜中に帰るなんて、さぞ大変でしょう」
 すると、若者はニッコリ笑ってこう言った。
「僕はこの土地の者ではありません。そろそろ清明節(注:春分から十五日目)なので、大王のお供で墓参をするところなのです。ご家族は先に行かれましたが、大王はまだこちらでお休みになっておられます。明日の辰の刻(注:朝八時)には出発なさいますから、私も帰って任務につかねばなりません」
 秀才には大王が誰のことなのかさっぱり見当がつかなかった。舳先(へさき)まで一緒に出ると、若者は水中に身を躍らせた。ドボンと水音を立て て、その姿は見えなくなった。若者の正体は魚怪であった。
 その翌日、海中に出現した山はゆっくりと動き始め、やがて水中に没した。人々は山が巨大な魚であったことを知った。若者が言っていた「大王」 とはこのことだったのである。

 俗に清明節の前には海の魚類が家族を引き連れて墓参をすると言われている。本当のことであろうか?

(清『聊斎志異』)