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母を慕いて


 

 茘裳(そうれいしょう)は幼い時に母を亡くし、その面影を慕ってはいつも涙を落としていた。
 呉門(注:現江蘇省蘇州)の某という者が、亡くなった人の姿を描き出すことができる、と売り込んできた。亡くなってから数十年経っていても、その魂を呼び出して描くとのことであった。宋は某に肖像画の作成を依頼することにした。
 某はきれいに清めた一室に壇をしつらえさせ、自ら護符を書いて祈祷した。そうすること三日、今度は絵の具と紙筆を並べ、宋にも拝礼させた。そ して、宋に部屋を覗いてはいけない、と厳命してから鍵ををかけて一人閉じこもった。
 その夜、突然、屋根瓦が鳴った。そして、真夜中、某のこもった部屋から筆を投げる音がカツンと響いたかと思うと、屋根瓦がまた鳴った。
 しばらくして、某が扉を開き、宋を呼び寄せた。室内には蝋燭が明々と灯り、到るところに絵の具が飛び散っていた。床には筆が転がっている。机の上には封印された紙が置いてあった。
 宋が開いてみると、それは生けるがごとき母の肖像であった。
「母上様」
 宋は肖像を捧げて号泣した。そして、某に莫大な謝礼を払ってその労に報いた。

 某によれば、没後六十年を過ぎたなら、肖像画を書くことはできないそうである。

(清『池北偶談』)