の戊寅の年(1338)、荊州地方(注:現湖北・湖南省)で夜になると幽鬼の叫び声が聞こえるという怪事が起こった。
「苦しや、苦し、いつになったら泥は襄陽府(じょうようふ、注:現湖北省省)に到着するのやら」
 住民に聞こえるのは声だけで、その姿は見えなかった。朝になって外に出てみると、大小を問わず、すべての木々の根元から一、二尺のところにべったりと何か塗りつけてある。それは泥と混ぜ合わせた犬や豚の毛であった。
 その後も叫び声は続いた。
「苦しや、苦し、いつになったら泥は成都府(注:現四川省)に到着するのやら」

 このような怪異は聞いたことがない。

(明『草木子』)