人形


 

 賛善(ろさんぜん)の家に陶器の花嫁人形があった。どこで手に入れたのかは忘れたが、もう何年も前からこの家にあった。
 ある時、夫人がこの人形を指さして、
「この子はずいぶんと器量良しですこと。あなたのお妾さんになさったら」
 と戯れた。それ以来、盧が寝台に身を横たえると、一人の愛らしい婦人がどこからか現れ、体を重ねてきた。その顔には見覚えがあるのだが、どうしても思い出せない。婦人の訪れは毎晩続いたので、盧はすっかり疲れ果てて気の抜けたようになってしまった。
 ようやく陶器の人形が祟りをなしていることに気付き、寺に寄進して供養してもらうことにした。以来、盧家では怪異がふっつりとやんだ。

 ある朝、寺の小僧が本堂の掃除をしていると、一人の婦人が現れた。小僧がどこから来たのかとたずねると、
「あたしは盧賛善様のお妾なんだけど、奥様に嫉妬されてここに追い払われたのよ」
 と答えた。
 後に盧家の人が寺に詣でに来た時、この妾のことを耳にした。盧が詳しく調べてみると、その姿かたちは例の陶器の人形と同じであった。
 盧の命で人形は砕かれたのだが、ちょうど心臓のあたりに鶏の卵くらいの大きさの血の塊があった。

(唐『広異記』)