三兄弟


 

 兆(けいちょう、注:現陝西省西安)の田という家に三人の兄弟がいた。ずっと一つ家に同居していたのだが、どういう事情があってか、突然、財産を分けて別々に暮らそうということになった。そして家屋から田畑、家財道具、銭、穀物に至るまで、すべて均等に三つに分けた。庭に茂る一株の紫荊(しけい、注:蘇芳“すおう”のこと)だけが残された。
「さて、どうしよう」
 兄弟の一人が言った。
「一株しかない」
 別の一人が言った。
「でも、分けるしかないでしょう」
 もう一人が答え、明日にでも切り倒して三つに分けることにした。

 翌朝、庭に出てみると、昨日まで青々と茂っていた紫荊が枯れている。まるで火に焼かれたようになっていた。
 驚いた長兄は二人の弟に言った。
「この樹は自分が切られることを知って枯れてしまったんだ。枝や葉はすべて一つ根から生えている。無理に分けたらどうなる?人間だって同じ じゃないか。一つ根から出た兄弟が別れて生きていけるものだろうか」
 弟達は兄の言葉に感動し、三人抱き合って泣き出した。
「決して樹を切るまい」
 そう誓った言葉に応じるかのように、枯れたはずの紫荊が生き返り、葉を茂らせ、花をつけた。
 兄弟はこの奇跡に感じ入り、元通り一つ家に住むことにした。

(六朝『続斉諧記』)