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熟練


 

 尭咨(ちんぎょうし)は射術に長じ、その腕前は当代無双と称されていた。本人もそれを非常に自慢にしていた。
 ある日、家の畑で弓を射ているところへ一人の油売りの老人が通りかかった。老人は足を止めると天秤棒を下ろし、じっと目を凝らしたまま立ち去ろうとしない。陳の射た矢が十中八九命中すると、かすかにうなずいて見せた。
 陳は小馬鹿にされたような気がした。
「おい、爺さん、あんたは射術を知っているのか?オレの腕が未熟だとでも言いたいのか?」
 すると老人はこう答えた。
「ほかでもない、あんたのは熟練しとるだけだわい」
 この答えを聞いて、陳はますます腹を立てて怒鳴った。
「オレの射術をバカにするのか!!」
 老人は穏やかな表情を崩さず、
「ワシは油を汲むことしかわからんでのう」
 そう言って葫蘆(ふくべ)を地面に立ててその口に銅貨を一枚のせた。そして、柄杓(ひしゃく)で油をすくい、ゆっくりと銅貨の穴に注いだ。
 注ぎ終わって銅貨を見てみれば、穴の周りは乾いままであった。
「ほかでもない、熟練しとるだけだわい」
 老人は涼しい顔でそう言った。陳は大いに笑って老人を解放した。

(宋『帰田録』)