呉生


 

 安(注:現安徽省)の呉生という人が熱病で死んだ。納棺をすませた時、突然、幽鬼が門から入ってきた。
 幽鬼はザンバラ髪に赤はだしで、庭の砂をすくっては棺の周りにいる家人にぶつけ始めた。驚いた家人はその場から逃げ出し、外から恐る恐る様子を伺っていた。槌で打つような物音が聞こえてくるのだが、一体何が起きているのかは皆目わからなかった。やがて静かになり、今度は男が一人、姿を現した。衣冠も厳めしく、そのまま厨房に入っていった。しばらくして男は厨房を出てどこかへ行ってしまった。
 夕暮れになって、落ち着いた家人がようやく棺の様子を見に行くと、棺の蓋が開いて何と呉生の遺体はなくなっていた。ザンバラ髪の幽鬼も姿を消していた。

 それから数ヵ月後のことである。呉生の家に建康(注:現在の南京)から手紙が届いた。差出人は死んだはずの呉生であった。手紙にはこう書かれてあった。
「私は一度死んだが、ある幽鬼に救われて生き返ることができた。寝ていたのだが、のどが渇いてしかたなく、厨房に入って水を飲んだのだ。すると、ぼぅっとしてそのまま門を出て、今は都にいるのだ」
 一年余り経って、呉生は帰宅した。

 以来、人々は呉生を「呉還魂」と呼んだ。

(宋『稽神録』)