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花札をする男たち


 

 陰県(注:現江蘇省)に顧氏の旧宅がある。明末に一家を挙げて国に殉じて以来百年近く封鎖されたままとなり、空き家となっていた。大勢の死人が出た邸ということで、住む者はおろか泊まる者さえなかった。

 武生(注:武学の学生。科挙の武芸版をめざして勉強する)の熊(ゆう)某が胆力を恃(たの)んで友人と賭けをし、単身、顧氏の旧宅に乗り込み一夜を明かすことにした。
 邸内には塵が数寸もつもり、建物はすっかり荒れ果てていた。熊某は奥庭へまっすぐに入ると、小楼に上がった。そこには寝台がまだ残されており、古びた帳(とばり)が風で揺れていた。
 月はぼうっとかすみ、庭に咲き乱れる花は芬々(ふんぷん)と匂いたった。熊某は寝台に上がると、帳を垂らして眠った。

 熊某が目覚めたの夜中のことであった。
 奇怪なことに部屋に明々と灯りがともされ、鏡台や化粧箱が燦然(さんぜん)と輝いていた。その輝きの中に年の頃十六、七の美女の姿があった。美女は袖の短い上着を身に着け、まろやかな腕を露わにしていた。
 美女は楼下に向かって呼びかけた。
「桂香、顔を洗う水を持ってきておくれ」
 やがて侍女が盥(たらい)を捧げて上がってきた。美女が顔を洗い終えると、今度は老婆が髪飾りを持ってきた。美女は両手で自分の頭を取って机の上に降ろし、丹念に髪を梳いて髷(まげ)を結い上げた。そして簪(かんざし)を挿してから、頭を元通り首の上に載せた。
 老婆は言った。
「蕊珠(ずいしゅ)様、いつもよりおきれいですよ」
 熊某は胆もつぶれんばかりに驚き、大慌てで逃げ出した。
 庭を出て母屋へ走ると、灯りがついている。座敷には卓が並べられ、十人余りの男たちが花札で遊んでいた。
 人に会って熊某はホッとした。座敷に上がって挨拶をすると、男たちも挨拶を返してきた。
「いやはや驚きました。奥庭の小楼で寝ていると、女が現れたのです。はじめは普通の人かと思っていたら、何と自分の頭を下ろして髪を梳き始める じゃありませんか。あまりに恐ろしくて逃げ出してきたのです。もし逃げなかったらどんな目に遭わされていたことやら」
 熊某が一気にまくしたてると、男たちは顔を見合わせて笑った。
「そんなに驚くことですかね。ほら、ご覧なさい」
 そう言うなり、男たちは一斉に自分の頭を取り下ろした。腹の中から声が聞こえてきた。熊某は恐怖のあまり失神した。

 翌朝、様子を見に来た友人が失神した熊某を見つけた。熊某は友人の介抱で息を吹き返し、昨夜見た怪異を物語った。

(清『柳崖外編』)