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妖魔の宴(前編)


 

 元年間(713〜741)のことである。
 非常に美しい妻を持つ男がいた。その妻がある日突然、何かにとり憑(つ)かれたようになり、起きることもできなくなってしまった。時を同じくして、男の飼う駿馬(しゅんめ)が痩せていった。気をつけて十分に飼料を与えるのだが、痩せる一方であった。
 あまりにも不思議なので、隣家に住んでいる胡人の術士に相談してみた。すると、胡人は笑ってこう答えた。
「馬は百里走っても平気ですが、いくらなんでも千里も走れば痩せもしますよ」
「何を言うのです。近頃は馬で出かけてなんかいませんよ」
「あなたが宿直の晩に奥さんがあの馬に乗って出かけているのです。あなたはご存知ないでしょうが。まあ、ご自分の目で確かめてみることですね」
 男は半信半疑ではあったが、次の宿直に仕事に出かけるふりをしてこっそり戻り、物陰から妻の様子をうかがった。
 初更(しょこう、注:夜八時)を回った頃、妻が起き上がって嬉しそうに化粧を始めた。身づくろいが整うと、下女のひいて来た駿馬にひらりと跨った。さっきまで寝たきりだった病人とは思えない身軽さである。妻が鞭で一打ちすると、駿馬は中空へ舞い上がった。その後ろに下女が箒(ほうき)に跨ってついて行った。男は隠れていたところから飛び出して後を追おうとした。しかし、馬も箒も空高く舞い上がってしまい、追跡することはできなかった。
 翌日、胡人のところへ駆け込んだ。
「おっしゃるとおりでした。どうしたらいいのでしょう」
「もう一晩、様子を見てみることです」
 その夜、男が幕の蔭(かげ)から様子をうかがっていると、妻が起き出してきた。妻は、
「あら、誰かいるのかしら?」
 と言って、下女に確かめさせた。下女が箒に火をつけて辺りを照らし始めたので、男は慌てて近くにあった大きな甕(かめ)に飛び込んで身を隠した。
「奥様、誰もおりません」
 妻はまた美しく装い、駿馬に跨って出かけた。下女が箒を燃やしてしまって乗るものがない、と騒ぎ出した。すると、妻は、
「何でもいいから乗っておいで」
 と命じた。下女は目の前に置いてある大きな甕にいそいそと乗った。それは男が隠れている甕であった。

 

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