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あざらし


 

 祐年間(1086〜1094)に珍しい魚を都に持ち込んだ者がいた。「海哥(かいか)」と称し、檻(おり)に入れて見世物にした。物見高い都の人々は競って見物に集まった。興行主は金を受け取ると、檻に向かって、
「海哥、海哥」
 と呼びかける。すると、海哥が声に応じて姿を現すのである。皆、面白がって金を払うので、一日の儲けは莫大なものとなった。貴人の家でも招く のだが、あちこちから呼ばれているので長居はできない。ちょっぴり顔を見せて終わりである。
 ある日、李駙馬(りふば)の庭園の池に放ったところ、呼びかけても姿を現さない。網を仕掛けてみたが、どこへ行ってしまったのかとうとう見つからなかった。

 この海哥はあざらしである。全身に豹のような斑(ふ)が入り、尾はない。四足であるが、二本の前足は手に似ており、後足と尾は一本にない合わ せたようになっている。登莱(とうらい、現山東省の北東沿岸部)の近海で多く見られる。その皮は緑色に染めて、鞍の下にあてる敷物を作る。
 当時、都では珍獣としてもてはやされたが、呼ばれて顔を見せるだけで、ほかには何の芸当もできなかった。それなのに貴人が千金を投じて一見を求めたのは、人に後(おく)れることを恐れたからである。
 あざらし人気はただ時流に乗っただけのものといえよう。

(宋『萍洲可談』)