長寿の秘訣


 

 伝正(ほでんせい)が杭州の太守となった時のことである。

 ある日、一人の方士が伝正をたずねてきた。この方士、年は九十何歳にもなろうかというのに、肌はまるで赤子のようにスベスベであった。
 伝正、嬉しくなって方士を手厚くもてなした。二人は意気投合して心ゆくまで語り合った。
 伝正が、
「長寿の秘訣(ひけつ)は何ですか?」
 とたずねると、方士は答えた。
「秘訣と言うほどでもありません。いたって簡単ですよ。女色を断ちさえすれば、ほかに何を我慢する必要もありません」
 伝正、この答えを聞くなり、ため息をついた。
「それなら千歳もの長寿を保っても無駄ですなあ」

(宋『遁斎閑覧』)