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幻 術 師


 

 の咸通年間(860〜874)のことである。
 一人の幻術師が街角で不思議な術を披露した。幻術師は十歳くらいの子供を連れて来ると、その首を切り落とした。そして、首と胴体が合うように並べてから、こう呼ばわった。
「金をくれればこの子を生き返らせてみせよう」
 見物人が銭を与えると、幻術師は子供の死体に向かって叱咤した。
「起きよ!」
 その途端、子供は起き上がって走り出した。
 明くる日も幻術師は子供を連れて現れた。評判を聞きつけて集まった見物人で山のような人だかりができた。
「昨日の術を見せろ」
 見物人はそう言って銭を投げて寄越した。おかげで、昨日とは比べものにならないほどたくさんの銭が集まった。
 幻術師は昨日と同様、子供のを首を切り落として叱咤したのだが、どうしたことか子供は起き上がらない。すると、幻術師は慌てて見物人に向かって謝った。
「それがしは都に来たばかりで、まだあいさつ回りもすませておりません。おそらく名人がお怒りになって邪魔をなさっておられるのでしょう。術を解いて下されば、その方を師匠とお仰ぎいたしましょう」
 そう言ってもう一度叱咤したのだが、やはり子供の死体は転がったままである。そこへ巡邏(じゅんら)が現れ、
「お前、子供を殺したな。逮捕する」
 と言うなり縄をかけようとした。幻術師は落ち着いた様子で、
「これだけたくさんの人がいる中で逃げようなどとは思いません。私はもう一つ珍しい術を会得(えとく)しております。どうかそれを披露させて下さい。それから逮捕しても遅くはありますまい」
 と言って、箱から瓜の種を一粒取り出すと、刀で二の腕を裂いて種を埋め込んだ。
 それからもう一度子供を叱咤したのだが、やはり動かない。幻術者が二の腕を露わにすると、小さな甜瓜(まくわうり)が一つ実っていた。
「それがしは人を殺すつもりはありませなんだ。どうか名人よ、この子を助けて下され」
 そう呼ばわってからまた叱咤したのだが、子供は動かない。幻術師はため息をついて肩を落とした。 「人殺しの罪を逃れることはできそうにないなあ」
 そして、腕に実った甜瓜(まくわうり)を切り落として一喝すると、今度は子供が起き上がった。その時、見物人の中にいた僧侶の首が突然、コロリと落ちた。
 幻術師は道具と子供を袋に収めると、背中にくくり付けた。そして、天を仰いでハーッと息を吐いた。その口から練り絹のようなものが飛び出し、空へ向かって伸びていった。幻術師はそれに飛びつき、よじ登った。やがてその姿は見えなくなった。
 僧侶の首は繋がらなかった。

(五代『中朝故事』)