Make your own free website on Tripod.com

 

鬼、鬼、鬼!(一)


 

 安(注:現杭州)の質屋の息子で樊生(はんせい)という男がいた。ある日、友人の李と西湖のほとりの寺へ遊びに行った。そこで、とても小さな鞋(くつ)を拾った。中に紙切れが入っており、こう書かれていた。
「配偶者となるお方を求めております。我こそはと思う方は、王老娘をお訪ね下さいませ」
 若くて独り身の樊生は読んだだけで心がグニャグニャになり、まだ見ぬ相手に恋をしてしまった。しかし、鞋の持ち主はおろか紙に記された王老娘の所在さえわからない。いたずらに悶々と日を過ごした。

 しばらくして昇陽宮の宝物庫の前を通りかかった時、二人の老女が世間話をしているのを見かけた。何気なく耳を傾けていると、さかんに「王老娘が…」と言っている。気になった樊生が後をつけて行くと、二人は一軒の茶屋に入った。樊生もその後に続いて入り、少し離れたところに席を取った。
 二人は小僧にたずねた。
「王老娘はいるかえ?」
「おります」
「お会いしたい、と伝えておくれ」
 小僧は奥へ入り、年の頃、四、五十くらいの婦人を呼んで来た。訪ねてきた老女の一人が言った。
「陶の御寮(ごりょう)さんの件はどうなりましたかえ?」
 こうきかれて、王老娘は眉をひそめた。
「それがねえ、まだ適当な人が見つからないんですよ。御寮さんは鞋を拾った人が現れたら、そこへ行きたいと言っているですけどね」
 樊生はこれを耳にして喜んだ。二人の老女が立ち去るのを待って、王老娘を呼んだ。樊生は酒をすすめながら、こう切り出した。
「鞋なら僕が拾いましたよ。陶の御寮さんとやらはどこにおられるのです?もちろん、おばさんは僕のために一肌脱いでくれるんでしょうね」
 王老娘は樊生の話を聞くなり叫んだ。
「天のお引き合わせとはこのことだよ」
 そして、樊生をまじまじと見てから、こう続けた。
「御寮さんは今年二十二におなりでね、張郡王のお妾さんだったんですよ。十七か八の時に郡王さんがお亡くなりになって、お邸を出されました。今度は普通の結婚をしたい、とお相手を探しているのですが、なかなか見つからず、もう四年になりますよ。持参金はたんまりお持ちです。あなたはお若くて、お金にもご不自由してらっしゃらないご様子。御寮さんもきっと気に入ると思いますよ。席を設けますから、御寮さんと会ってみませんか」
 こうして、樊生は小料理屋で見合いをすることになった。

進む