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白娘子の物語(一)



呂洞賓


 春の三月三日のことである。西湖(注:浙江省杭州の湖。景勝地で有名)のほとりの柳は青々と芽吹き、桃花は妍(けん)を競い、そぞろ歩きの遊客達の眼を楽しませていた。
 八仙人の一人呂洞賓(りょどうひん)も白髪白髭の団子売りの老人に身をやつし、天秤棒を担いでやって来た。しばらく辺りを眺め渡すと、断橋(注:西湖の北部にある。西湖十景の一つ)の脇の一本の大きな柳の下に天秤棒を下ろした。天秤棒に下げた寸胴鍋の中にはゆだった団子が浮いていた。
 呂洞賓はおもむろに口を開くと、
「だんご〜ぇ、だんご〜。団子はいらんかねぇ〜。大きいのは三つで一銭、小さいのは一つで三銭だよ〜」
 と節をつけて呼び売りを始めた。この呼び売りを聞いた人々はこぞって笑った。
「おいおい、爺さん、耄碌(もうろく)してるのかい?大きいのと小さいの、値段が逆じゃないかね?」
 呂洞賓はその言葉には耳も貸さず相変わらず呼び売りを続けた。
「大きいの三つで一銭、小さいのは一つで三銭〜」
 人々は口々に、
「耄碌爺さんだ」
 と面白がって集まり、みな一銭の方を買ったので、あっという間に大きい方の団子は売り切れてしまった。
 その時、父子連れがやって来た。父に抱かれた男の子は人々が団子を食べているのを見ると自分も食べたいとぐずり出した。しかし、もう安くて大きい方は売り切れてしまっていた。仕方なく父親は子供のために三銭で小さい方を買うことにした。
 呂洞賓は銭を受け取ると、まず砂糖湯を碗に注ぎ、それから団子をすくって入れた。父親はしゃがんで碗を受け取ってフウフウ吹いて冷ました。それに合わせて団子が碗の縁を転がった。男の子はそれを見ると大層面白がり、自分で吹きたいと言い出した。
 父親から碗を受け取って口を近づけた途端、団子はまるで生きているかのように男の子の口の中に滑り込み、そのまま腹に納まってしまった。男の子はあっという間に団子がなくなってしまったので、つまらなさそうに父親に連れられて帰って行った。
 さて、それからが大変であった。なんとこの男の子は家に帰ったその晩から何も食べたがらなくなってしまった。そんな状態が三日三晩も続いたので、さすがに父親も慌てて男の子を抱き上げると、団子を買った断橋まで団子売りを探しに行った。
 その日も呂洞賓は団子を売っていた。相変わらず売れるのは大きい安い方である。そこへ例の父子がやって来た。事情を聞いた呂洞賓は大笑いした。
「この小さい団子は並みのものじゃないでのう。どうも、この坊主にはもったいなかったようじゃな」
 そう言いながら男の子の足を掴むと逆さにして、
「出てこい!」
 すると男の子の口から三日前に飲み込んだ団子がそのままの形で転がり出てきた。団子はそのまま転がると湖に落ち、水底へ沈んでいった。
 断橋の付近の湖底では一匹の白蛇と亀が修行をしていた。そこへ地上から団子が沈んできた。白蛇は鎌首をもたげると団子をくわえ込み、そのまま飲み込んでしまった。自分の分がないと見てとった亀が白蛇の分を横取りしようとして争いになった。
 白蛇も亀も修行を始めて五百年の歳月を経ており、その法力は伯仲していた。しかし、今や白蛇は呂洞賓の団子を食べた身である。この団子は実は仙薬で、法力を増大する力を秘めていた。白蛇はこの団子を食べたことで、もう五百年分法力が増大していた。争いに敗れた亀は無念の思いを抱いて、湖の西へと逃げ去った。

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