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 々、ある人が娘を残して遠方へ出かけ、長らく家を留守にした。家では一頭の牡馬を飼っており、娘がその世話をしていた。
 いつまで経っても父は戻らなかった。娘は一人暮らしの寂しさにいつも父のことを思った。ふと気がつくと、馬が娘をじっと見つめている。娘はふざけてこう言った。
「もしも父さんを連れて帰ってくれたら、あたし、お前のお嫁さんになってあげるわ」
 すると、馬は繋いである綱をちぎると、柵を飛び越え駆け去った。
 馬は休むことなく駆け続け、やがて遠方にいる父のもとへたどり着いた。父は家に残した馬が突然、姿を現したのだから驚いた。飼い葉をやろうとしたところ、馬はやって来た方向を望み見て悲しそうにいななくばかりであった。
「もしや、家で何かあったのだろうか?」
 父はそう思うと居ても立っても居られず、そのまま馬に跨り、家へ戻った。

 父は前にも増して馬に目をかけ、寝藁も新しいものに取り替え、飼い葉も上等なものを与えた。しかし、馬は飼い葉に口をつけないばかりか、娘の姿を見ると興奮して暴れ回る。その様子は喜んでいるようにも、怒っているようにも見えた。
 このようなことが何度か続き、さすがに父も不審に思い始めた。そこで娘を問い詰めると、娘はすべてを打ち明けた。
「何て約束をしたのだ!家名に傷をつけるつもりか」
 父は弓で馬を射殺し、その皮を剥いで庭にさらした。
 しばらくして、娘は隣家の娘とともに馬の皮を見に庭に出た。二人は皮を足蹴(あしげ)にしながら笑った。
「畜生のくせに人間を嫁にしようなんて厚かましすぎるのよ。皮を剥がれていい気味ね」
 その言葉も終わらぬうちに、馬の皮が舞い上がったかと思うと、娘に覆い被さった。そして、そのまま娘を包み込んで飛び去った。隣家の娘は恐ろしさのあまり、近づくこともできず、慌てて娘の父を呼びに走った。
 父は慌てて戻ったのだが、すでに娘の姿はどこにも見当たらなかった。

 数日後、近くの大樹の枝で娘と馬の皮を見つけた。その姿はすっかり変わり、蚕(かいこ)となって樹上で糸を吐いていた。その繭(まゆ)は大きくて厚みがあり、普通の蚕とは異なっていた。隣家の嫁がこの蚕を持ち帰り、飼ってみたところ、数倍もの糸が取れた。
 人々は蚕のいた木を「桑」と呼んだ。「桑」は「喪」(そう)を意味する。

 以来、農民は争って桑の木を植え、蚕を飼うようになった。

(六朝『捜神記』)