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飾り職人の郭


 

 州(注:現江西省)の瀘蕭(ろしょう)市場の東に郭(かく)という飾り職人がいた。年は三十を越していながら、いまだに独り身であった。市場の西の小間物屋のおかみがいつも郭の銀細工を買っていた。
 おかみには十五、六になる娘がいたのだが、ある晩、郭の家に駆け込んでくるなり、
「あんたのお嫁さんにして」
 と言い出した。驚きのあまり返答もしかねる郭に娘は、
「あたし、前からあんたのことが好きだったのよ。でも、おっかさんが許してくれなくて。そこで、おっかさんをだまして抜け出してきたの」
 と言う。どうやってだましたのかときくと、
「死んだふりをしたの。おっかさんったら真に受けてあたしをお棺に入れたのよ。誰もいない時に、こっそり抜け出してきたの。今ごろ、空っぽのお棺を前にお弔いをしているはずよ」
 と娘は平然と答えた。郭は娘を奥の部屋に隠し、絶対、外へ出ないよう言い含めた。

 一月あまりして、おかみが郭の留守中にやって来た。たまたま奥の部屋をのぞくと、娘と一緒に葬ったはずの紅い履(くつ)がある。おかみは逆上して騒ぎ立てた。
「郭の野郎がうちの娘の墓を暴いた!」
 郭は帰宅後、この騒動を知って仰天した。娘が、
「おっかさんが突然やって来たから慌てて隠れたんだけど、履を隠すのを忘れちゃって。あんた、早く逃げて。あたしなら大丈夫、後でちゃんと追いつくから」
 と言うので、郭は潭州(たんしゅう、注:現湖南省)へ逃げることにした。十数里行ったところで娘が追いつき、一緒に潭州へ行った。
 しばらくして、旅費が底をついた。娘は、
「あたし、これでも歌がうまいのよ。少しくらい稼げるんじゃないかしら」
 と言って、花街で歌を流した。娘の歌声はすばらしく、人々はこぞって心づけを与えた。評判を聞きつけた金持ちは争って娘を邸に招き、莫大な謝礼をはずんだ。一年あまり後には結構な財産を築くことができた。

 ある日、いつも通り娘が花街で歌っているところへ、一人の道人が通りかかった。道人は髪を総角(あげまき)に結い上げ、身の丈は九尺(注:当時の一尺は約30センチ)あまりもあった。それが郭の背を叩いて言った。
「皆が見ているのは幽鬼に操られた人形よの」
 郭はハッとした。急いで道人を人目につかないところへ連れて行くと、
「どうかお助けください」
 と懇願した。道人は郭に東嶽廟(とうがくびょう)へ行って祈願するよう言い残した。
 郭は道人に言われた通り東嶽廟にこもって拝礼した。二更(注:夜十時ごろ)頃、鎖で縛られた娘が引っ立てられてきた。突然、地面に倒れたかと思うと、そのまま屍(しかばね)となった。娘の屍に別の幽鬼がとり憑いていたのであった。

 郭は娘の罪をあがなうために、私財を投じて東嶽廟を修築した。そして、手厚く娘を弔った。
 その夜、郭の夢に娘が現れた。娘は涙ながらに礼を述べ、姿を消した。

(元『異聞総録』)