菊 水


 

 陽の酈県(現河南省)に甘谷(かんこく)という谷がある。そこを流れる谷川の水はその名の通り甘い。山上に菊の花がたくさん咲き乱れており、その滋液が水に溶け込んでいるからだという。
 谷には三十余りの人家があるが、井戸はない。皆、この谷川の水を飲んでいる。そのため、ここの人は非常に長寿である。長命なものは百二、三十歳、普通で百余歳、七、八十歳だと早死にと言われる。菊の花には体を軽くし、気を補って人の体質を丈夫にする作用があるためである。
 南陽に太守として赴任する者はこの水の評判を聞き及んでいるので、レキ[麗+阜]県に命じてこの水を毎月三十斛(こく、1斛は約20リットル)送らせては飲用に供していた。そのおかげで任期の終る頃までには、持病をすっかり治すことができた。

(漢『風俗通義』)