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棋局姻縁(後編)


 

 好き連中が妙観と小道人を対局させようと、有志で金を出し合い、銭二百さしを集めた。そして、日時を決めて寺院での対局を計画した。
 これに困惑したのは妙観である。小道人にかなわないのはもうわかっている。しかし、衆人環視の中で負けを喫するわけにはいかない。そこで、妙観は小道人のところへひそかに人を遣わしてこう言わせた。
「この勝負は三局で二勝しなければなりません。どうか勝ちを譲って下さいませ。報酬として銭五十さしをお払いします」
 小道人は少し考えてから答えた。
「別に金には困っているわけではないから、そんなものもらってもどうしようもない。私が欲しいのは妙観どのその人ですよ。妙観どのにお伝え下さい。枕を共にしてくれるなら勝ちを譲りましょう」
 妙観はやむなく承諾した。
 対局の当日、小道人は約束どおり二敗した。妙観は報酬として銭五十さしを払い、もう一方の約束は無視した。

 それからしばらくして、小道人はある王族の宴に招かれて碁を披露した。皆、その見事な指し手に感嘆した。
「我が国の国手、妙観道人とどちらが上だろう」
「先日の対局では妙観道人が勝ったそうだが」
 客人がこう言うのを聞いた小道人、我慢できなくなった。
「かの女の碁は大したことはありません。あの時は私が勝ちを譲ったのでございます。お疑いならここへあの女をお呼び下さいませ。皆さまの前で見事打ち負かしてみせましょう」
 早速、妙観を招いて勝負させることにした。
「妙観道人、蔡州の小道人よ、その方らは国は異にする国手だ。ここでどちらの技量が上か競ってもらいたい。何も賭けないというのもつまらぬ。各々銭百さしを賭けるというのはどうであろうか?」
 小道人は懐から金五両を取り出した。
「これだけ賭けましょう」
「突然のお召しに参上したもので、五両もの大金は持参してまいりませんでした。されば、この対局はご辞退申し上げます」
 妙観はそう言って引き上げようとした。すると、小道人は客人たちに拱手(きょうしゅ)して言った。
「金がないのならば、妙観どのにはご自身を賭けていただきましょう。妙観どのが勝てば私の金を、私が勝てば妙観どのをいただきます。いかがでしょう?」
「いいぞ、いいぞ!」
 居合わせた客人は面白がり、やんやの大喝采を上げた。妙観は蒼白になった。
 小道人は容赦なく攻めつけ、妙観は連敗を喫した。
 妙観はまたもや約束を無視した。今度は小道人も引き下がらず、役所に訴え出た。また王族たちも証言してくれたので、妙観には約束どおり小道人のもとへ嫁ぐよう判決が下された。

 こうして蔡州の少年は志を遂げた。

(宋『夷堅志』)

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