鬼球


 

 閣学士の方苞(ほうほう)に胡求という下僕がいた。年は三十あまりで、主人が宿直する時にはいつも従っていた。方苞が武英殿に宿直し、胡求は浴徳堂で寝るのであった。
 三更(注:夜十二時)を回った頃、胡求は二人の者に階の下へ抱え下ろされて目が覚めた。月が真昼のように明るい。そこに照らし出された二人は青黒い姿で、短い袖につまった襟の衣を着ていた。
 胡求は恐ろしくなり、その場から逃げ出そうとした。その時、東側に神とおぼしき姿が現れた。紅い上着に黒い紗の帽子を被り、身の丈は一丈あまり(注:当時の一丈は約3.2メートル)もある。神は足で胡求を蹴った。胡求の体は西へ転がった。西側にももう一人同じ姿、身なりの神がおり、転がってきた胡求を蹴った。胡求を毬(まり)に見立てて蹴り転がしているのである。胡求は体中蹴られ、痛くてたまらなかった。
 五更(注:朝四時)を回って鶏がときを告げると、二人の神は姿を消した。ようやく解放された胡求はへとへとになって地面に倒れ伏した。
 朝になって見てみると全身青く腫れ上がり、傷のないところはなかった。

 胡求はそのまま病み臥せり、数ヶ月経ってようやく治った。

(清『子不語』)